富山県では自治体から民間企業まで幅広い分野で生成AIやAI技術の活用が急速に進んでいます。人口減少や高齢化、人手不足といった地方が抱える共通課題に対して、富山県の各組織は最新のAI技術を積極的に導入し、業務効率化や住民サービスの向上、産業競争力の強化を実現しています。
本記事では、富山県内の自治体、学校法人、医療機関、民間企業における具体的なAI活用事例を詳しく紹介します。これらの事例は、自治体関係者や地域活性化に興味があるビジネス層、AIに関心がある方々にとって、実践的な参考資料となることでしょう。
富山県のAI活用の特徴は、単なる技術導入にとどまらず、地域の実情に即した課題解決型のアプローチを取っていることです。全国初の取り組みや先進的な実証実験を通じて、地方におけるAI活用のモデルケースを数多く生み出しています。

水野倫太郎
(株)ICHIZEN HOLDINGS
代表取締役
慶應義塾大学経済学部卒。2017年米国留学時ブロックチェーンと出会う。2018年仮想通貨メディアCoinOtaku入社。2019年同社のCMO就任、2020年に東証二部上場企業とM&A。2022年(株)ICHIZEN HOLDINGSを立ち上げ、Web3事業のコンサルティングをNTTをはじめとした大企業から海外プロジェクト、地方自治体へ行う。ブロックチェーンだけでなく生成AI導入による業務効率化を自治体中心に支援中。

監修 水野倫太郎
(株)ICHIZEN HOLDINGS
代表取締役
慶應義塾大学経済学部卒。2017年米国留学時ブロックチェーンと出会う。2018年仮想通貨メディアCoinOtaku入社。2019年同社のCMO就任、2020年に東証二部上場企業とM&A。2022年(株)ICHIZEN HOLDINGSを立ち上げ、Web3事業のコンサルティングをNTTをはじめとした大企業から海外プロジェクト、地方自治体へ行う。ブロックチェーンだけでなく生成AI導入による業務効率化を自治体中心に支援中。
富山県:生成AI・マルチモーダルAIを活用した働き方改革の先進的実証実験
富山県は2023年9月から2024年3月にかけて、株式会社インテックと共同で生成AIおよびマルチモーダルAIを活用した働き方改革の実証実験を実施しました。この取り組みは、地方自治体における生成AI活用の先駆的事例として全国から注目を集めています。
活用事例の概要
この実証実験は、富山県の地域課題を解決する実証実験プロジェクト「Digi-PoC TOYAMA」の一環として実施されました。地方自治体、特に広域自治体である都道府県は、取り扱う業務が幅広く、それに伴う書類や資料も多岐にわたり、形式も保管場所もバラバラという現状があります。加えて、数年ごとの人事異動で引継ぎや業務知識習得の時間が確保しにくいことから、担当者の日々の業務負担が大きくなっているという課題がありました。
活用方法
実証実験では、以下の3つの検証項目を設定して取り組みました。
1. 書類のデータ化 業務効率化のためのユースケースを選定し、対象となる書類がマルチモーダルAIによってデータ化できることを検証しました。書式や保管方法が多岐にわたる自治体業務の書類を、AIを活用して統一的にデータ化することで、検索や利活用が容易になることを目指しました。
2. 書類検索 2つのユースケースで、データ化した書類資料から目的の情報が生成AIによって検索できることを検証しました。特に広報情報・素材検索において、職員が必要な情報を迅速に見つけられるかどうかを重点的に検証しました。
3. データ活用 富山県の公式YouTubeチャンネルのお知らせ用シナリオが生成AIによって作成できることを検証しました。これまで職員が手作業で行っていたシナリオ作成業務を、AIが支援することで効率化を図りました。
成果
実証実験の結果、以下の具体的な成果が得られました。
データ検索における成果 約97%の割合で、妥当なファイルを検索することができました。内訳は、1回の検索で回答を得たものが61.3%、複数回の検索で得たものが35.5%でした。利用者に特別なスキルが無くても、回答がわかりやすく結果の合否を判別しやすい点が高い評価を得ました。今後は紙文書スキャンデータの要約の利用などで副次的な効果が期待できることが検証できました。
データ利用における成果 約86%の割合で、利用できるシナリオを作成することができました。シナリオ検討・作成時間の大幅削減、複数パターンを作成し選択・修正するなど利用者の業務的、心理的負担の軽減が期待できるだけでなく、他部門への汎用的な展開への期待で高い評価を得ました。
この実証実験を受け、生成AIによる業務改革への期待は富山県からも高まっており、インテックは今回の結果をふまえ、これまで自治体業務で培った知見と最新の技術を組み合わせることでサービスの価値を高め、他団体へもサービス展開していく予定です。
富山県:AIさくらさんによる住民サービス向上
富山県は2022年4月から、AIチャットボット・アバター接客システム「AIさくらさん」を導入し、住民サービスの向上と業務効率化を実現しています。
活用事例の概要
この取り組みは、富山県庁の問い合わせ対応業務の効率化と、富山県が運営するWebサイトの利便性向上を目的として導入されました。特に富山県公式ホームページと富山県移住・定住促進サイトにおいて、住民や移住検討者からの問い合わせに24時間365日対応できる体制を構築しました。
活用方法
AIさくらさんは、富山県の公式ホームページに設置され、訪問者からの質問に対してリアルタイムで回答を提供します。システムは事前に学習された富山県に関する情報データベースを基に、住民からの多様な問い合わせに対応します。特に移住・定住促進サイトでは、県外からの移住検討者が抱く疑問や不安に対して、詳細な情報提供を行っています。
成果
AIさくらさんの導入により、職員の問い合わせ対応業務の負担が大幅に軽減されました。また、住民や移住検討者は時間を問わずに必要な情報を取得できるようになり、サービスの利便性が向上しました。これにより、職員はより専門性の高い業務や対面でのサービス提供に集中できるようになり、全体的な行政サービスの質の向上につながっています。
魚津市:全国初!全住民用音声入力ChatGPT「ミラChat」の革新的導入
富山県魚津市は2024年1月から、全国初となる全住民を対象とした音声入力対応ChatGPT「ミラChat」のトライアルを開始しました。この取り組みは、自治体のAI活用において画期的な事例として全国から注目を集めています。
活用事例の概要
魚津市の「ミラChat」は、「24時間いつでも、どこでも魚津市の行政に関する疑問点を解決してくれる」をコンセプトとして開発されたAI自動応答システムです。従来の自治体AI導入事例の多くが公務員限定や限定的な住民利用にとどまっていた中、魚津市は全住民を対象とした包括的なサービスを提供することで、自治体AI活用の新たなスタンダードを示しました。
活用方法
学習データの構築 魚津市役所が事前に用意した「よくある質問」約600個を機械学習させ、住民からの問い合わせに答えることを目標としています。これらの質問は、市民が日常的に市役所に問い合わせる内容を網羅的に収集し、ChatGPTが適切な回答を提供できるよう体系化されています。
音声対応機能の実装 特に注目すべきは、音声入力機能の実装です。お年寄りにとって文字入力は容易ではないという課題を解決するため、スマートフォンのマイクを使った音声入力にまで踏み込んだ設計となっています。これにより、高齢者や障がいを持つ住民など、テクノロジーへのアクセスが限られる層にも恩恵をもたらすことができます。
24時間365日対応 従来の市役所の窓口業務は平日の限られた時間のみでしたが、ミラChatの導入により、住民は休日や夜間を問わず、いつでも行政サービスに関する情報を取得できるようになりました。
成果
住民側のメリット 365日24時間、役所に問い合わせができるようになったことで、住民の利便性が大幅に向上しました。特に平日の日中に市役所に電話をかけることが困難な働く世代や、緊急時の情報取得において、その効果を発揮しています。
行政側のメリット 電話での問い合わせ工数が大幅に減少し、職員はより専門性の高い業務や複雑な相談対応に集中できるようになりました。これにより、限られた人的リソースをより効果的に活用できるようになっています。
全国への波及効果 魚津市の先進事例により、他自治体も音声対応ChatGPTの導入に踏み切る事例が増加することが予想されます。実際に、この取り組みは自治体AI活用のモデルケースとして、全国の自治体関係者から高い関心を集めています。
射水市:生成AIサービスによる庁内業務革新
射水市は2025年5月に生成AIサービス提供業務の契約を締結し、庁内業務の効率化と職員の負担軽減を目的とした包括的なAI導入を実現しました。
活用事例の概要
射水市の生成AI導入は、公募型プロポーザル形式により受託事業者を選定し、予算2,255,000円(消費税及び地方消費税を含む)で実施されました。この予算には初期構築費、サービス利用料、研修費用等、企画提案に関わる全ての費用が含まれており、包括的なAI導入プロジェクトとして設計されています。
活用方法
業務効率化の推進 生成AIサービスを活用して庁内業務の効率化と負担の軽減を図り、職員が人にしかできない業務に注力する環境を整備することを目的としています。具体的には、文書作成、データ分析、住民対応など、様々な業務領域での生成AI活用が想定されています。
職員研修の実施 単なるシステム導入にとどまらず、職員が生成AIを効果的に活用できるよう、研修プログラムも含まれています。これにより、AI技術に不慣れな職員でも段階的にスキルを習得し、業務に活用できる体制を構築しています。
成果
射水市の取り組みは、中規模自治体における生成AI導入のモデルケースとして注目されています。予算規模や導入プロセスが明確に示されていることで、他の自治体にとっても参考になる事例となっています。
富山市:AIオンデマンド交通「あいのり大山」による地域交通革新
富山市は2023年10月から実証実験を開始し、2024年4月から本格運行を開始したAIオンデマンド交通「あいのり大山」により、地域公共交通の新たなモデルを構築しています。
活用事例の概要
「あいのり大山」は、利用者の予約に対してAIを活用し、リアルタイムに最適配車を行うシステムです。従来の路線バスとは異なり、時刻表や固定運行ルートを持たない柔軟な運行形態を採用しており、利用者のニーズに応じて最適なルートを動的に生成します。
活用方法
対象エリアと運行システム 大庄・上滝・月岡エリアを対象として、利用者が事前に予約を行うと、AIが他の利用者の予約状況や交通状況を考慮して、最も効率的な配車とルートを自動的に計算します。これにより、従来の定時定路線運行では対応できなかった、きめ細かな交通サービスを提供しています。
料金体系 利用しやすい料金設定として、一般(高校生以上)200円、小中学生100円、65歳以上100円という低料金を実現しています。特に高齢者への配慮として、65歳以上の料金を大幅に割り引くことで、移動手段の確保に課題を抱える高齢者の外出支援を行っています。
予約システム 利用者はスマートフォンアプリや電話で事前予約を行い、AIが最適な乗車時刻と乗車場所を提案します。これにより、利用者は無駄な待ち時間を削減でき、効率的な移動が可能になります。
成果
地域住民の利便性向上 従来の路線バスでは対応できなかった細かなニーズに対応することで、地域住民の移動利便性が大幅に向上しました。特に高齢者や交通弱者にとって、ドア・ツー・ドアに近いサービスを低料金で利用できることの意義は大きく、地域の生活質向上に貢献しています。
運行効率の最適化 AIによる動的ルート最適化により、従来の定時定路線運行と比較して、車両の稼働率向上と運行コストの削減を両立しています。これにより、持続可能な地域交通システムの構築が可能になっています。
他地域への展開可能性 富山市の成功事例は、同様の課題を抱える他の地方都市にとって重要な参考モデルとなっており、AIオンデマンド交通の全国展開に向けた基盤を提供しています。
富山市:AIカメラによる人流観測事業で実現するデータドリブンなまちづくり
富山市は2023年6月から、富山駅周辺および総曲輪地区に52台のAIカメラを設置し、常設による人流計測を実施しています。この取り組みは北陸地区初の常設AIカメラによる人流計測として注目されています。
活用事例の概要
この事業は、都市計画や商業施設運営の最適化に向けたデータ収集を目的として実施されています。従来の人流調査は期間限定の手作業による計測が主流でしたが、AIカメラの常設により、継続的かつ詳細なデータ収集が可能になりました。
活用方法
設置場所と範囲 富山駅周辺および総曲輪地区という富山市の中心市街地に52台のAIカメラを戦略的に配置し、歩行者の動線や滞留状況をリアルタイムで把握しています。これにより、時間帯別、曜日別、季節別の詳細な人流データを蓄積しています。
プライバシー保護への配慮 AIカメラシステムは、個人を特定できない形でデータを処理し、プライバシー保護に十分配慮した設計となっています。人数や動線の把握に特化し、個人情報の収集は行わない仕組みを採用しています。
データ活用の仕組み 収集されたデータは、市の政策立案や民間事業者の出店計画、イベント企画などに活用されています。特に中心市街地活性化施策の効果測定や、新たな施策の検討において、科学的根拠に基づいた意思決定を可能にしています。
成果
まちづくりの科学的根拠提供 従来の経験や勘に頼りがちだったまちづくりに、客観的なデータを提供することで、より効果的な政策立案が可能になりました。特に商業施設の配置や公共空間の設計において、実際の人の動きに基づいた最適化が図られています。
民間事業者への支援 収集されたデータは、商業施設の出店検討や営業時間の最適化など、民間事業者の経営判断にも活用されており、官民連携による中心市街地活性化に貢献しています。
継続的な効果測定 常設システムにより、施策の効果を継続的に測定できるようになり、PDCAサイクルに基づいた政策改善が可能になっています。
富山市:スマートシティ推進プロジェクトによる包括的AI活用
富山市は継続的にスマートシティ推進プロジェクトを展開し、AI、IoT、センサーネットワークを活用した次世代型都市モデルの構築に取り組んでいます。
活用事例の概要
このプロジェクトは、富山市全域をカバーする「富山市センサーネットワーク」を基盤として、様々なAI技術を活用した都市サービスの提供を目指しています。特にものづくり現場の人材育成・定着支援や、データ連携基盤の構築に重点を置いています。
活用方法
AI活用による人材育成支援 ものづくりを実施する企業と連携し、熟練技術者の視点で撮影した動画や作業マニュアルなどを素材にAIで研修用教材を生成し、技能継承につなげる取り組みを実施しています。多言語対応も含めて、外国人労働者の技能習得支援も行っています。
センサーネットワークの構築 市域全体をカバーするセンサーネットワークを整備し、IoTセンサーから蓄積したデータやオープンデータを活用して、行政課題の解決や業務効率化、市民サービスの向上に向けた新サービス・新産業の創出に取り組んでいます。
データ連携基盤の整備 様々なシステムから収集されるデータを統合的に管理・活用するためのデータ連携基盤を構築し、AI技術を活用した高度な分析と予測を可能にしています。
成果
産業振興への貢献 AI技術を活用した人材育成支援により、地域製造業の競争力強化と人材定着に貢献しています。特に技能継承の課題解決において、AIの活用が効果を発揮しています。
次世代型都市モデルの構築 IoT、AI、データ連携基盤を統合したスマートシティモデルの構築により、持続可能な都市運営の基盤を整備しています。これにより、人口減少時代においても質の高い都市サービスを提供できる体制を構築しています。
砺波市:AIチャットボットによる住民サービスのデジタル化
砺波市は2024年3月1日から市ホームページでのAIチャットボット運用を開始し、住民問い合わせ対応の自動化を実現しています。
活用事例の概要
砺波市のAIチャットボット導入は、令和5年度砺波市デジタル化推進計画の一環として実施されました。この取り組みは、住民サービスの向上と職員業務の効率化を両立させることを目的としています。
活用方法
市ホームページに設置されたAIチャットボットは、住民からの一般的な問い合わせに24時間365日対応します。市の各種手続きや制度に関する質問に対して、事前に学習されたデータベースを基に適切な回答を提供します。
成果
AIチャットボットの導入により、住民は時間を問わず必要な情報を取得できるようになり、職員の電話対応業務の負担軽減も実現しています。これにより、職員はより専門性の高い相談対応に集中できるようになっています。
富山大学:生成AI教育実践による次世代人材育成
富山大学は2023年から継続的に生成AI教育実践に取り組み、教育品質の向上と学生のAIリテラシー向上を実現しています。
活用事例の概要
富山大学の取り組みは、数理・データサイエンス・AI教育プログラムの一環として実施されており、生成AIを利活用した教育実践と検討を通じて、教育における生成AI活用のモデルケースを構築しています。
活用方法
教育プログラムの体系化 数理・データサイエンス・AI教育を推進する富山大学データサイエンス推進センターを中心として、学生が生成AIの各能力を積極的に身につけられるよう、体系的な教育プログラムを構築しています。
実践的な活用研修 学生が実際に生成AIを使用するための研修プログラムを実施し、教育における生成AI活用の具体的な方法論を開発しています。これにより、学生は理論だけでなく実践的なスキルも習得できます。
都市デザイン学への応用 特定分野として「都市デザイン学」を設定し、「まちづくり、地域づくり」におけるデータサイエンス、AIの活用を推進しています。これにより、地域課題解決に直結する実践的な教育を提供しています。
成果
教育品質の向上 生成AI技術を教育に活用することで、従来の教育手法では困難だった個別最適化された学習支援が可能になり、教育品質の向上を実現しています。
学生のAIリテラシー向上 学生が生成AIを実際に使用する経験を通じて、AI技術に対する理解と活用能力が大幅に向上しています。これにより、社会に出てからもAI技術を効果的に活用できる人材を育成しています。
教育モデルの構築 富山大学の取り組みは、他の教育機関にとっても参考になる教育モデルとして注目されており、生成AI教育の標準化に貢献しています。
富山県立大学:地域連携によるIT人材育成とAI技術応用
富山県立大学は2024年から数理・データサイエンス・AI教育プログラムを本格的に展開し、地域企業との連携による実践的なIT人材育成に取り組んでいます。
活用事例の概要
富山県立大学の取り組みは、情報工学部を中心として、IoTとAIを組み合わせた産業価値創出と地元企業との連携による実践教育を特徴としています。特に地域の製造業における生産効率向上支援に重点を置いています。
活用方法
産学連携による実践教育 地元企業と連携し、実際の産業現場におけるAI技術の応用を学生が体験できる教育プログラムを実施しています。これにより、理論と実践を結びつけた教育を提供しています。
IoT・AI融合技術の開発 IoTとAIを組み合わせて産業に新たな価値を生み出す技術開発に取り組み、学生が最新技術の開発プロセスを学べる環境を整備しています。
地域課題解決への応用 富山県内の企業が抱える具体的な課題に対して、AI技術を活用した解決策を学生と共に開発することで、実践的な問題解決能力を育成しています。
成果
地域IT人材の育成 富山県内のIT人材不足の解決に向けて、実践的なスキルを持つ人材を継続的に輩出しています。これにより、地域企業のDX推進を人材面から支援しています。
産学連携の促進 大学と地域企業との連携が深化し、共同研究や技術開発プロジェクトが活発化しています。これにより、地域全体のイノベーション創出に貢献しています。
地域企業の生産効率向上支援 大学の研究成果を地域企業に還元することで、製造業を中心とした地域産業の競争力強化に貢献しています。
富山県立中央病院:AI技術による病理診断の革新
富山県立中央病院は2022年から株式会社インテックと共同で、AI技術による病理診断精度の向上と業務効率化を目的とした先進的なシステムを導入しています。
活用事例の概要
この取り組みは、病理診断精度の向上と業務効率化の両立を目的として、AI技術導入の基盤となる新たな診断システムを導入したものです。病理診断でのAI技術活用への取り組みは、北陸地区でも先進的な事例として注目されています。
活用方法
病理・細胞診検査業務支援システム「EXpath」の導入 インテックが開発した病理・細胞診検査業務支援システム「EXpath」を導入し、WSI(ホールスライドイメージ)スキャナ、画像管理システム「aetherSlide」を用いたデジタルパソロジーシステムを構築しています。
AI画像診断システムの活用 2022年に画像保存サーバの増設に加え、AIシステム、3D画像解析システム等、PACS関連インフラを増強し、放射線部門における検査ならびに画像診断業務の効率化を図っています。
デジタル化による診断プロセスの最適化 従来のアナログ的な病理診断プロセスをデジタル化することで、診断の標準化と効率化を実現しています。これにより、診断品質の向上と診断時間の短縮を両立しています。
成果
診断精度の向上 AI技術の活用により、従来の人的診断に加えて、AIによる補助診断が可能になり、診断精度の向上を実現しています。特に見落としやすい病変の検出において、AIの支援が効果を発揮しています。
業務効率化の実現 デジタルパソロジーシステムの導入により、病理診断業務の効率化が図られ、医師の負担軽減と診断スピードの向上を実現しています。
将来のAI技術活用基盤構築 今回のシステム導入により、富山県立中央病院では今後導入が進むと予想される病理分野でのAI技術活用の基盤を構築することができました。これにより、将来的なAI技術の進歩に対応できる体制を整備しています。
北陸地区での先進事例 富山県立中央病院の取り組みは、北陸地区における医療AI導入の先進事例として、他の医療機関にとっても重要な参考モデルとなっています。
黒部市民病院:AI問診システムによる患者サービス向上
黒部市民病院は2025年1月からAI問診システムを導入し、問診業務の効率化と患者サービスの向上を実現しています。
活用事例の概要
黒部市民病院のAI問診システムは、専用のタブレットまたは患者のスマートフォン、タブレット、パソコン等を使用した事前問診システムです。患者が答える症状等に応じ、AI(人工知能)が自動で質問を行う仕組みとなっています。
活用方法
対象診療科と患者 内科、整形外科、小児科、産婦人科及び耳鼻いんこう科における初診患者(その他、当該診療科の受診歴はあるが、これまでとは違う症状で受診される方)、救急科(救命センター)を受診される方、他院からの紹介状を持参し受診される方を対象としています。
AI問診センターの設置 市民病院1F正面玄関にAI問診センターを設置し、平日8:15~11:00の時間帯で専門スタッフが対応しています。患者は受付後にAI問診センターで問診を行い、その後の診察に進む流れとなっています。
事前問診システムの活用 患者は来院前にパソコン・スマートフォン等で事前AI問診を行うことも可能で、QRコードやリンクを通じてアクセスできます。これにより、来院時の待ち時間短縮と効率的な診察が可能になっています。
多様な端末への対応 患者自身のスマートフォンやタブレットを使用することを基本としながら、お持ちでない方へは専用タブレットを貸し出すことで、デジタルデバイドに配慮したサービス提供を行っています。
成果
問診業務の効率化 AI問診システムの導入により、医師や看護師の問診業務の負担が大幅に軽減され、より専門的な診察や治療に集中できるようになりました。
患者待ち時間の短縮 事前問診や効率的な問診プロセスにより、患者の待ち時間が短縮され、患者満足度の向上につながっています。
診察の質向上 AI問診により収集された詳細な症状情報を基に、医師はより的確で効率的な診察を行うことができるようになり、診察の質向上を実現しています。
医療スタッフの負担軽減 定型的な問診業務をAIが担うことで、医療スタッフはより専門性の高い業務に集中でき、働き方改革にも貢献しています。
スギノマシン:AI搭載切削加工自動化システムによる製造業革新
富山県滑川市に本社を置くスギノマシンは、2025年5月からAI搭載の切削加工自動化システムの量産を開始し、製造業の常識を破壊する革新的な技術を実用化しました。
活用事例の概要
スギノマシンが開発したAI搭載切削加工システムは、図面一枚で全自動切削加工を実現する画期的なシステムです。この技術は金沢市のソフトウェア開発会社「アルム」と共同開発されたもので、AIソフトウェアの開発などを行う同社の技術力とスギノマシンの製造技術が融合した成果です。
活用方法
図面からの自動プログラム生成 従来の切削加工では、熟練技術者が図面を読み取り、加工プログラムを手作業で作成する必要がありました。しかし、このシステムでは図面をAIが解析し、最適な加工プログラムを自動生成します。これにより、プログラミング工程の大幅な効率化を実現しています。
全工程の自動化 切削加工の全工程をAIが制御し、人的介入を最小限に抑えた完全自動化を実現しています。これにより、24時間無人運転も可能になり、生産性の飛躍的向上を達成しています。
切削時間の大幅短縮 AIによる最適化により、従来の切削加工と比較して加工時間を大幅に短縮することが可能になりました。これにより、同じ時間でより多くの製品を生産できるようになっています。
成果
製造業の常識を破壊する革新 従来の製造業では不可能とされていた図面一枚での全自動加工を実現し、製造業の常識を根本から変える技術革新を達成しました。
生産効率の大幅向上 AI技術の活用により、従来比で大幅な生産効率向上を実現し、製造業における競争力強化に貢献しています。
人手不足問題の解決 製造業が直面する深刻な人手不足問題に対して、AI技術による自動化で解決策を提供しています。これにより、限られた人的リソースをより付加価値の高い業務に集中させることが可能になっています。
技術継承問題の解決 熟練技術者の技術をAIが学習することで、技術継承問題の解決にも貢献しています。これにより、ベテラン技術者の退職後も高品質な加工技術を維持できるようになっています。
丸喜産業×NEC:AI活用再生プラスチック製造システムによる循環型社会実現
富山県高岡市でプラスチックのリサイクルなどを手がける丸喜産業は、2024年10月に大手電機メーカーのNECと共同で、AI活用再生プラスチック製造システムを開発したと発表しました。
活用事例の概要
この取り組みは、製造現場の人手不足や技術の継承が課題となる中、AIを活用することで作業時間を短縮し、再生プラスチックを効率的に製造するシステムを開発したものです。循環型社会の実現に向けて、AI技術を活用した革新的なアプローチとして注目されています。
活用方法
熟練技術のAI化 従来、取引先の要望に応じた再生プラスチックを作るには、回収したプラスチックの材質や色がそれぞれ異なる中、熟練の作業者が過去のデータや経験、勘を頼りに、最適な材料の量や組み合わせなどを決めて配合する必要がありました。このシステムでは、そうした熟練技術をAIが学習し、自動化しています。
最適配合の自動提案 欲しい強度や色などを指定すれば、AIが過去のデータを元に、コストや在庫も考慮して最適な配合のしかたを示してくれます。これにより、経験の浅い作業員でも高品質な再生プラスチックを製造できるようになっています。
コスト・在庫最適化 単純な配合最適化だけでなく、コストや在庫状況も考慮した総合的な最適化を行うことで、経営効率の向上も実現しています。
成果
作業時間の大幅短縮 実証実験では配合の作業時間が、経験の浅い作業員では半分に短縮できることが確認されました。これにより、生産性の大幅向上を実現しています。
生産能力の増強 システムの導入によって生産能力の増強が期待でき、事業拡大の基盤を構築しています。
廃棄素材の削減 最適な配合により、廃棄する素材の量の削減も期待できるとしており、環境負荷の軽減にも貢献しています。
技術継承問題の解決 熟練作業者の経験や勘をAIが学習することで、技術継承問題の解決に貢献しています。これにより、ベテラン作業者の退職後も高品質な製品製造を継続できます。
業界全体への波及効果 NECは「業務の効率化や、ベテランの技術の共有にもつながるので、業界で広く使ってもらえるよう展開していきたい」としており、プラスチックリサイクル業界全体の技術革新に貢献することが期待されています。
インテック:地域DX推進の中核企業としてのAI技術開発
富山市に本社を置く株式会社インテックは、1964年の創業以来培ってきた技術力をもとに、AI、RPA等のデジタル技術の活用や新たな市場の創造に積極的に挑戦し、地域のDX推進において中核的な役割を果たしています。
活用事例の概要
インテックは富山県を拠点として、自治体向けAIソリューション、医療分野でのAI活用、金融機関向けAIシステムなど、幅広い分野でAI技術の開発と提供を行っています。特に地域の課題解決に特化したAIソリューションの開発において、全国的にも注目される成果を上げています。
活用方法
自治体向けAIソリューション 富山県との生成AI・マルチモーダルAI実証実験をはじめ、富山市のBIツール構築とデータ利活用支援など、自治体業務のDX推進に向けた包括的なAIソリューションを提供しています。
医療分野でのAI活用 富山県立中央病院での病理・細胞診検査業務支援システム「EXpath」の開発・導入など、医療現場でのAI技術活用を推進しています。
金融機関向けAIシステム dotDataと協業し、金融機関のデータ利活用分野で特徴量生成・抽出を自動化するAI、生成AIを融合した「dotData Insight」を提供しています。
成果
地域DX推進の牽引 富山県を拠点として、地域全体のDX推進を牽引し、自治体、医療機関、民間企業の業務効率化と競争力強化に貢献しています。
新たな市場創造 AI技術を活用した新しいサービスや市場の創造に積極的に取り組み、地域経済の活性化に貢献しています。
技術力と地域密着の融合 創業60年の技術力と地域密着型のサービス提供により、他社では実現困難な地域特化型AIソリューションを開発し、競争力を強化しています。
シャープライズ:生成AI活用による北陸企業のDX推進支援
富山市を拠点とするシャープライズは、2025年2月から最新生成AI技術とExcel自動化ツールを活用した代理店業務DXで93%の効率化を実現し、北陸企業のDX推進を支援しています。
活用事例の概要
シャープライズの取り組みは、最新生成AI技術とExcel自動化ツールを融合させることで、従来手作業で行われていた代理店業務を大幅に自動化し、業務効率の飛躍的向上を実現したものです。
活用方法
生成AI技術とExcel自動化の融合 最新の生成AI技術と既存のExcel自動化ツールを組み合わせることで、複雑な業務プロセスの自動化を実現しています。これにより、従来のRPAでは対応困難だった柔軟性の高い業務自動化が可能になっています。
代理店業務の包括的自動化 代理店業務における見積作成、契約書作成、進捗管理、報告書作成など、幅広い業務プロセスを自動化し、包括的な業務効率化を実現しています。
物流効率化システムの導入 富山市内の製造業企業における物流効率化システム導入事例では、生成AIを活用した在庫管理の最適化や配送ルートの効率化を実現しています。
成果
93%の効率化を実現 代理店業務において93%という驚異的な効率化を実現し、業務プロセス革新のモデルケースを構築しています。
北陸企業のDX推進支援 富山県を中心とした北陸地域の企業に対して、実践的なDX推進支援を提供し、地域全体の競争力向上に貢献しています。
業務プロセス革新のモデル構築 生成AI技術を活用した業務プロセス革新のモデルケースとして、他企業への展開可能性を示しています。
富山県のAI活用事例:まとめ
富山県における生成AI活用事例を詳しく調査した結果、地方自治体から民間企業まで幅広い分野で、実践的かつ効果的なAI活用が進んでいることが明らかになりました。これらの取り組みは、単なる技術導入にとどまらず、地域が抱える具体的な課題解決に直結した価値創造を実現している点で特筆すべきものです。
富山県の取り組みは、地方創生におけるAI活用のモデルケースとして、全国の自治体や企業にとって貴重な参考資料となるでしょう。今後も富山県から生まれる革新的なAI活用事例に注目していく必要があります。地方だからこそ実現できる、人間中心のAI活用が、持続可能な地域社会の実現に向けた重要な鍵となることは間違いありません。